本当の外国語の勉強の仕方で説明した点を踏まえ、本教材では語彙・表現を最大限に効率よく学ぶために以下のことに徹底的に工夫しました。

  • 口語、文語、技術語、専門用語、流行語等、現代の社会人が生活の全ての場面に必要とする語彙を漏れなく網羅するべく、最大限の努力がされています。
  • 全ての単語・慣用句・表現は独立して扱ってあり、それぞれに重要度が格付けされています。重要度は既存の教材のようにシェークスピアではなく、今の米国の一般的な社会人の使い方に基づいています。日本の学校で教えられている語彙と本教材の優先する語彙を比べれば、いかに前者が現実とかけ離れているか一目瞭然になると思います。
  • 全ての単語・表現には学術論文や古典文学から抜粋したような難解なものではなく、米国の普通の社会人が本当に使っている簡潔な例文が示されています。また日本語の「絶する」は「想像を絶する」の慣用句で普通使われるのと同様に、米国人が本当に使うお決まりの台詞を使い、同時に「青い空」のように連想し易い文で学習者の記憶を助けるように徹底的に工夫されています。
  • 語彙・表現はその主旨ごとに纏められ、更にその中で意味・使い方が具体的にどう違うのかを説明してあります。
  • 下品な言葉、差別用語、隠語等も社会人として理解が必要なものはそれを明記した上で全て収録してあります。

これにより、重要な語彙を優先し、かつ類義語彙の意味と使い分け方を納得することで、記憶・習得効率を最大限に高め、組織的に学ぶことが出来ます。前述の通り既存の教育方法や辞書では、類義語と類似表現の意味と使い分け方、重要度等が全く説明されていません。学習者にとっては重要度の高いものから学んだほうが効率的なことは当然として、類義語の使い分け方が判らないと納得できず、結局どれも覚えられなくなります。例えば「理解する」の英語を覚えようとする時と辞書には understand, comprehend, grasp, fathom が羅列されていますが、意味合いの違い、使い分け、重要度の違いが判らないと、後に「「理解する」は英語で何だっけ」と考える時、上記の単語が頭の中で交錯して結局どれも思い出せないということになります。前述の通り何を学習するにしても、人間の脳というのはよく理解出来ないもの、納得出来ないものを丸暗記するのは非常に苦手な一方、はっきり理解し納得できるものは驚くほど容易に覚えることが出来ます。

重要度の格付け

本教材の語彙の格付けの目安は以下の通りです

  • 1 -> 構文するために文法的に絶対必要な人称代名詞、助動詞、接続詞、前置詞等、及び最低限必要な語彙
  • 2 -> 社会人として最低限の意思疎通するために必要な語彙
  • 3 -> 社会人として生活する(仕事、交遊、他)ために絶対必要な語彙
  • 4 -> 絶対必要ではないが、普通の社会人は頻繁に使う語彙
  • 5 -> 語彙が特に豊富な人、又は専門の人が使う語彙、或いは多くの人が知ってはいるが、殆ど使わない俗語
  • 6 -> 特殊で限られた人達だけが知っている専門的・学術的な語彙・俗語

3級までの単語・表現を習得すれば、社会人として機能することが出来るようになりますが、友達の間の冗談、漫才師の話、機知に富む新聞や雑誌の文章等はまだ理解に苦しむでしょう。4級も網羅すれば、それらも普通に理解できるようになります。

目安として、一般的な社会人は4級は皆会得しており、自由自在・頻繁に使うと考えてください。

ちなみに既存の教材では特に「下品」とされる表現は省かれていますが、それらの表現は実際の米国人の会話で頻繁に使われるものであり、知らなければ間違った理解をしたまま使ってしまったり、不用意に質問してしまったりして、かえって恥をかきかねないものです。それらの表現を自分でも使うか否かは個人の判断であり、教育者と自称する人達が決めることではありません。本教材はそれぞれの語彙の社会・道徳的価値の判断はせず、好むと好まざると米国の一般的な社会人が使っている全ての語彙を網羅してあります。

同時に既存の教材では動植物の名前が非常に多く収録されていますが、本教材では犬猫豚牛のような日常生活に関係したり、象徴的な意味を持つもの以外は収録していません。その理由としてそれらはインターネット等で簡単に調べられること、更に社会人としての日常生活に必要が無い、どうしても必要な時は「あのアフリカにいる飛べない鳥」等と言って容易に意味が伝わるから、ということが挙げられます。

実際の勉強法

本教材は第一章、第二章といったように段階的に学ぶ形式ではありません。ここまで何度も繰り返した通り、外国語を本当に学ぶ唯一の方法は語彙・表現を増やすことです。前述の通り社会人として仕事をし、ニュースや映画を見て問題なく理解出来、友達と冗談が自由に交わせるようになるには約二万の語彙・表現を学ぶ必要があります。個々の学習者によって、またかなり進んだ学習者でも基本的な語彙・表現に漏れがあることは十分あり得るため、第一章を終えたら第二章に進むよりも、時には上から下へ、時には右から左へ、時には斜めに上に、というように色々な角度を組み合わせて学ぶことが最も効果的です。

下記の方法を全て組み合わせ、複数の角度から学ぶことで重要な単語・表現の漏れを防ぎ、複数の連想方法で芋づる式に思い出せるようになります。

  • 重要度の高い単語・表現を優先して学ぶ 当然のことながら、重要度の高い単語・表現を先に学ぶことで、効率良く実力を高めていくことが出来ます。また重要度1位の単語・表現は文法・構文の理解にも欠かせないため、全てを優先して漏れなく学ぶことが必要です。
  • 構造語を学ぶ 構造語とは代名詞、前置詞、助動詞等、文を組み立てる鍵となる単語・表現です。これらを集中して学ぶことで、英語の文法が自然と身につくようになります。
  • 類義語を学ぶ 語彙を効果的に増やす最大の鍵は類義語を纏めて学ぶことです。類義語の重要度、意味合いの違いをはっきり理解して学ぶと混乱が無くなって覚え易くなり、迷わずに使い分けられるようになります。
  • 同じ種別の単語を纏めて学ぶ 例えば「目・鼻・耳・口」や「手・指・手首・肘・腕」等の関連した言葉を纏めると連想力によって覚え易くなります。
  • 同じ位相の単語・表現を纏めて学ぶ 例えば丁寧な単語・表現を纏めて学ぶことでも連想力によって覚え易くなります。

上記の学習法を実践するために、本教材は現在以下の機能で構成されています

  • 英語の単語・表現を探す 辞書で探すのと同じように特定の単語・表現を検索することが出来ます。また「食べる」「寝る」等の日本語の主旨から検索することも出来ます。
  • 英語の見出し語を探す 例えば unnecessary, unthinkable 等 un で始まる単語を全て検索することが出来ます。また surefire, wildfire 等 fire を含む単語・表現を検索することも出来ます
  • 日本語の主旨を探す 本教材では類義語を比較しながら学べるようにするため、各英語の単語・表現の主旨を「食べる」「寝る」等の日本語で纏めてあります。但し「寝る」は「眠る」とも言うことが出来ますが、教材を制作する際は便宜上全て「寝る」に統一してあります。このために学習者がいつも簡単に探している日本語を見つけられるとは限らないため、日本語の検索機能を設けました。「食べる」「寝る」などの言葉をそのまま検索することも出来ますし、五十音別に一覧することも出来ます。探している日本語が見つかったら、その意味を持つ英単語・表現を一斉に探し出すことが出来ます。
  • 種別を探す 多くの英単語・表現は「生物・医学」「怪我・病気」「法律」「電気」等の種別に分けられており、その種別より検索することが出来ます。
  • 位相から探す 口語、文語、古語、丁寧語、謙譲語、下品な言葉等、言葉の位相(使われ方)から検索することが出来ます。
  • 構造語を探す 前置詞や助動詞など、文の構造の鍵となる言葉、文法的に重要な言葉を纏めて検索することが出来ます。
  • 例文を探す 見出し語としてだけではなく、本教材全体の約三万七千の例文の中から特定の単語・表現が使われている例を検索することが出来ます。例文が多数ある場合、一回の検索では結果は十五に限られます。検索を繰り返すことで他の例文を見ることが出来ます。
  • 練習問題 英文を日本語に訳す、又は日本語を英文に訳す練習が出来ます。

上記の機能を使って単語・表現を様々な角度から検索し、例文を学んで下さい。英文を見て直ぐに理解出来るよう、そして日本文を読んで直ぐ英語に訳せるよう練習して下さい。たったそれだけかを思われるかもしれませんが、ここまで何度も述べた通り、私達が母国語を学んだのは周囲の人達の台詞を理解・吸収し、更にそれらを真似て自分の意思を表現する台詞を作るという、結局全く同じ方法です。英文を日本文、日本文を英文に訳す際、一字一句正確に訳すことに拘る必要は全く有りません。決り文句を除いては同じ事を表現するのに複数の文例があるのは普通です。それよりも出来る限り多くの例文に当たり、英語の「雰囲気」を体得することを目指して下さい。多くの例文に当たることで、文法も自然と身につくようになります。

全ての学問・技術と同様、言葉の勉強にも魔法はありません。ちまたの語学教材の多くは一日15分、数週間勉強するだけで新しい言葉が話せるようになるなどと謳っていますが、簡単な挨拶ができる程度のことを「言葉が話せる」と呼んでいるのでない限り、そんなことは有りえません。母国語でも私達はそれこそ数十年かけて語彙・表現力を蓄積するわけです。但し、寝ていて自然に語彙が増やせる方法は無いものの、非効率な勉強法と効率的な勉強法の間には厳然たる違いが有ります。目標は最小限の努力で最大限の効果を上げることです。

尚、以下の点に留意して下さい。

  • 本教材は現代の米国で使われている英語、「米国英語」を対象としています。現在「英語」には大別して本来の英国系英語(英国連邦を含む)と米国英語が存在します。標準英語と標準米語の最も違う点は発音で、語彙・構文の違いは標準日本語と関西弁の差より小さい程度、意思疎通には通常大きな問題は有りませんが、特に口語で英国、米国それぞれでしか使われない単語・表現等がかなり存在します。筆者は米国でしか生活したことが無く、英国語の正確な知識が無いため、本教材はごく一部の英国表現しか含んでおらず、基本的に米語のみを扱っています。
  • 「日本語の主旨」は類義語を纏めるための道具に過ぎず、厳密な意味ではありません。正確な意味合いは例文と日本語訳、備考欄を参照して下さい。また「争う」と「嫌う」、「不満」と「文句」のように意味が一部分重なるものもありますが、教材作成の便宜上どこかで割り切らざるを得ず、誰もが筆者と全て同じ意見ではないと思われ、あくまでも学習のための道具として利用して下さい。
  • 前述の通り「日本語の主旨」は類義語を纏めるのが目的であり、厳密な規則には沿っていません。例えば「拍手」のように語彙数が限られているものは名詞の「拍手」も動詞の「拍手する」も「拍手」で一つに纏められています。一方名詞の「始め」と動詞の「始める」はそれぞれに相当数の単語・表現があるため、学習の便宜上独立させています。
  • 「日本語の主旨」を和英辞典としては使わないで下さい。例えば「臭い」を検索すると “funky”, “stinky”, “smelly” などが挙がりますが、これらは独立した単語として「臭い」を意味するものであり、必ずしも使用頻度が高いものではありません。代わりに英米人は「臭い」を “it smells bad/awful/terrible” (それは悪い・酷い臭いがする)と一般的に表現します。動詞の “smell” は最重要単語の一つと格付けしてあり、例文を通して「臭い」の表現を提示してあります。英語と日本語は一対一ではないことを忘れず、英語の単語・表現の重要度の高いものを例文を通して学ぶようにして下さい。
  • 各単語・表現の文法機能分類は見出し語の分類ではなく、表現全体の分類による場合があります。例えば fall asleep は 「寝ている」の意の形容詞 asleep が見出し語の「眠りに落ちる」の意の成句ですが、他の「眠る」の意の動詞の類義語として扱うために便宜上動詞と分類してあります。つまり文法学上の厳密で正確な分類よりも学習のための便宜を優先してあることに留意して下さい。

発音

本教材では敢えてカタカナで発音を表記しました。個人でこの教材を開発する際、発音記号は入力が非常に難しいからということもありますが、一方で大多数の日本人学習者にとっては、発音記号よりカタカナ表記のほうが分かりやすく真似しやすいと見受けられるからです。

但し TH、F のような摩擦音、曖昧母音、子音だけの音等々、カタカナでは表現出来ない音が英語には当然存在するので、本教材内のカタカナ発音は感じをつかむための参考とし、最終的には学習者が英語の音を学んで正しい音に近づけるようにお願いします。

少しでもカタカナを英語の音に近付けるために以下の表記が使われています。

  • 「ェァ」は二つの音ではなく、「エ」と「ア」の中間の音 “æ” を表します
  • 日本語の普通の「ラリルレロ」は L、アイヌ語カナ(小文字)「ㇻㇼㇽㇾㇿ」は R を表します
  • 語尾の殆ど発音されない L も アイヌ語カナ(小文字)「ㇽ」で表しています
  • 小文字の「ォ」は “ə” を表します。「カォ」「バォ」等は「カ・オ」「バ・ オ」ではなく、”kə”、”bə” を表し、一気に発音します
  • 「ヲ」は「ア」と「オ」の中間の音 “ə” を表します

「!」は強勢の位置を示します。日本人が英語を話す際、通じるようにするには個々の発音よりも、強勢の正しさが非常に大切になります。カタカナ語は本当の正しい英語の強勢と反対の事が多いので、特に注意してください。

尚、本教材は標準的な米国英語の発音を基準にしています。米国英語と英国英語の最大の違いは強勢の有る O が米語では「ア」であるのに対して、英国語では「オ」であることです。Body と hot は米国では「バディ」「ハット」になり英国では「ボディ」「ホット」になります。

本教材はあくまでも効率良く学ぶための道具であり、言葉の使い方は最終的には各個人が決める問題です。本教材を使って力をつけた後は、人間同士の会話、テレビ、映画、インターネット等で力に磨きをかけることを忘れないで下さい!